新建築2003年11月臨時増刊『日本設計 100 Solutions/都市を再生する建築』書評

都市感覚を鋭利に
松葉一清(建築評論家)

久しぶりにベルリンの市街を歩いて,次々と出現するオフィスビルを眺めながら考えた.東京の汐留などの高層ビルは,間違いなく「質」の点で優位にあると.もちろん景観を形成できなかった恨みは残るが,個々のビルについては一枚も二枚も東京のほうがうわてだ.アメリカとの比較はともかく,少なくともヨーロッパを圧倒している.

そんなことを実感させたのは日本設計による汐留の「松下電工東京本社ビル」(本誌0304)に感心したからだ.過剰な表現はないが,2層吹抜けのアトリウムも,採光・通風のシステムも垢抜けし,外観にも抑制された美しさがある.これが今後の日常的水準なら,オフィスワーカーたちは今よりずっと幸福になるだろう.

『日本設計 100 Solutions/都市を再生する建築』は,そうした生真面目なこの組織の実作を題材とするキーワードを集めた,いわば都市百科事典だ.松下電工のそれは「Night & Day」.時刻を追って姿を変える2層吹抜けの効用が端的に集約されている.100のキーワードを大判の迫力ある写真で視覚的に伝達しながら,最小限に抑制した作品解説,技術解説などを適所に配する構成は,何より眺めて楽しく,ページを追ううちに都市に対するさまざまな感覚が鋭利になっていく気にさせられる.資料的な側面が強くなりがちの大手設計組織の別冊特集では,異例の意欲的な構成といえよう.

ケビン・ローチ,シーザー・ペリ,ジョン・ジャーディから隈研吾まで,個人建築家との共同設計の例も増えている.そうした状況の変化を自らを磨く機会ととらえる組織の若さが,随所から読み取れるのも興味深い.

100のソリューションは,組織ならではの多様な人材を包容するスケールメリットがもたらしたものであり,その力は,海外で活躍する個人建築家と両輪をなす,日本ならではの大設計組織の存在意義でもある.そうした社会的な意味を実感できるのも本書に目を通す効用だ.

(新建築2003年11月号書評より)